受け継いだ着物に、第二の「着物生」を。お母様の着物約50枚と向き合った一日

はじめに

受け継いだ着物の整理に、何から手をつければよいのか悩んでいませんか。

「母の着物を受け継いだけれど、どうしたらいいのかわからなくて……」

最近、こんなご相談をいただくことが増えてきました。

着物が好きだったお母様やお祖母様から、たくさんの着物を受け継いだ。でも、自分ではどんな着物があるのかもわからない。量が多すぎて、どこから手をつけたらいいのかもわからない。かといって、簡単に手放すこともできない――。

そんな思いを抱えたまま、たんすや押し入れ、ダンボールの中に着物をしまいっぱなしにしている方は、きっとたくさんいらっしゃると思います。

先日、九州にお住まいのお客様のお宅に伺って、受け継がれた着物のお片付けを一緒にさせていただきました。今日は、その一日のことを書いてみようと思います。同じようなことで悩んでいる方に、少しでも「ひとりじゃないんだ」と感じていただけたらうれしいです。

私がこの活動を始めた理由

お話の前に、少しだけ私の思いを聞いてください。

私たち安原貸衣裳店は、長いあいだ着物とともに歩んできました。たくさんの着物を見て、たくさんの方の晴れの日に立ち会ってきました。だからこそ、思うんです。

着物を作ったときの思いが、きっとある。

娘の成長を願って仕立てた一枚。大切な人の結婚式のために誂えた一枚。人生の節目に袖を通した一枚。どの着物にも、それを作った方の願いや喜びが、ちゃんと込められているんです。

そんな大切な着物が、中身もわからないまま処分されてしまうのは、あまりにもったいない。そして、さみしい。

だから私は、受け継がれた着物にも「第二の着物生」を送らせてあげたい。そう思って、この着物のお片付けのお手伝いを始めることに決めました。

ご依頼のきっかけは、SNSでした

今回ご依頼くださったのは、60代の女性のお客様です。

お母様がとても着物好きな方で、たくさんの着物を残されました。その着物を受け継がれたものの、

  • とにかく量が多い
  • どんな着物があるのか、自分ではわからない

この二つのことで、ずっと困っていらっしゃったそうです。

そんなとき、たまたまSNSで私たちの投稿を見かけてくださって、ご連絡をくださいました。遠く離れた場所でも、こうしてご縁がつながる。本当にありがたいことだなあと、しみじみ感じました。

ダンボールの中には、約50枚の着物

畳の部屋に置かれたダンボール箱の中の着物と、丁寧に広げられた藤色や桃色の着物

受け継いだ大切な着物。一枚ずつ広げて、

お宅に伺うと、ダンボールに入った着物が私たちを待っていました。その数、ざっと50枚ほど。

ふたを開けて、まず驚いたのは種類の多さです。色留袖、訪問着、小紋、紬……。改まった場で着るものから普段着まで、ひと通りすべて揃っていると言っていいほどでした。お母様が本当に着物を愛して、いろいろな場面で楽しんでいらしたことが、ふたを開けた瞬間から伝わってきました。

そして、もう一つ驚いたのが、保管状態のよさです。

長くしまわれていた着物には、カビやシミ、虫食いが見つかることも少なくありません。でも今回は、どの着物もとてもきれいで、カビひとつありませんでした。

お母様が一枚一枚をどれほど大切にしていらしたか。着物を見れば、ちゃんとわかるんですね。私も自然と背筋が伸びる思いでした。

一枚ずつ、「どんな着物か」をお話ししながら

畳の上に淡い桃色の訪問着を広げ、二人で袖や裾の柄を確認している手元

「どんな着物?」「いつ着られる?」一枚ずつ広げて確かめながら、これからの楽しみ方を一緒に考えます。※画像はイメージです。

お客様は、どんな着物があるのかをご存じない状態でした。そこで、ダンボールから一枚ずつ取り出して広げながら、「これは何という着物か」「どんな場面で着られるか」を、ひとつずつお伝えしていきました。

着物って、種類によって着ていく場面が決まっているんです。簡単にご紹介しますね。

色留袖(いろとめそで)
黒以外の地色で、裾にだけ柄が入った格の高い着物です。親族として出る結婚式や、式典など改まった場面で着られます。

訪問着(ほうもんぎ)
肩から裾まで、縫い目をまたいで一枚の絵のように柄がつながった華やかな着物です。結婚式のお呼ばれ、お子様の入学式や卒業式など、いろいろな場面で活躍してくれます。

小紋(こもん)
全体に同じ柄がくり返し入った着物です。お友だちとのお食事や観劇など、おしゃれ着として気軽に楽しめます。

紬(つむぎ)
糸を先に染めてから織った、素朴で味わいのある着物です。ちょっとしたお出かけやお買い物にぴったりです。

種類がわかると、「この着物なら、あの集まりに着ていけるかも」というイメージがふくらみます。お客様も、一枚広げるたびに少しずつ表情がやわらいでいかれました。

叙勲の色留袖に、思わず震えました

確認を進めるなかで、ひときわ心に残った一枚がありました。

お母様は、以前に叙勲を受けられたことがあるそうです。そのときに作られたのであろう色留袖が、出てきたんです。

人生の晴れの日のために、お母様が心を込めて仕立てられた一枚。その着物を前にして、私は思わず震えてしまいました。

実は私、日頃から叙勲・褒章に関わるお仕事もさせていただいているんです。叙勲や褒章を受けられる方が、どんな思いでその日を迎えて、どんな気持ちで装いを整えられるのか。ずっとそばで見てきました。

そんな私のところに、叙勲の日の色留袖がめぐってきた。偶然というより、なにか必然のようなご縁を感じずにはいられませんでした。

この色留袖には、お母様の誇らしい気持ちや、その日の喜びが、今もそのまま残っているように思えたんです。

「途方にくれる」という気持ち

ここで、お片付けをしていて私が感じていることをお話しさせてください。

着物を受け継いで困っている方は、本当に途方にくれていらっしゃいます。どうしたらいいのか、本当にわからないんだと思います。

しかも、受け継いだ着物はただの「もの」ではありません。広げるたびに、お母様の姿や思い出がよみがえってきます。「これは母があの日に着ていた着物だ」と思うと、手が止まってしまう。気持ちが入ってしまうと、お片付けはまったく進まなくなるんです。

それは決して悪いことではありません。それだけ大切な方の、大切な着物だということですから。

だからこそ、私は「さっさと片付けましょう」とは言いません。お客様のそんなお気持ちもまるごと受け止めながら、一緒にゆっくり進めていきます。ひとりだと止まってしまう手も、誰かと一緒なら、少しずつ動かせるようになるものなんです。

2時間のつもりが、4時間たっても半分

正直に申し上げると、伺う前は「2時間くらいでできるかな?」と思っていました。

ところが、とんでもありませんでした。

一枚ずつ広げて、種類を確かめて、着られる場面をお伝えして、お客様とお話ししながら進めていくと、時間はあっという間に過ぎていきます。結局4時間ほど作業をしましたが、すべての着物を確認して仕分けることはできず、手をつけられたのは全体の半分ほどでした。

でも、私はそれでよかったと思っています。

一枚一枚に、お母様の思い出や作ったときの気持ちが詰まっているんです。それを確かめながら進めるのですから、時間がかかるのは当たり前のことなんですよね。

「着たい着物」は、ハンガーへ

明るい和室で、桃色・藍色・藤色の着物3枚を袖まで広げて掛けている様子

これから着たい着物を、一時的にハンガーへ。持っている着物が見えると、次のお出かけを考える楽しみも広がります。※画像はイメージです。

仕分けの方法は、とてもシンプルです。

ダンボールから一枚ずつ取り出して、着物の種類を確認します。そして、お客様が「これから着たい」と思われた着物は、いったんハンガーにかけていきました。

ハンガーにかけておくと、どんな着物があるのかひと目でわかりますし、長くたたまれていた着物に風を通すこともできます。何より、「次は何を着ようかな」と選ぶのが楽しくなるんです。

ダンボールの中で眠っていた着物が、一枚、また一枚とハンガーに並んでいく様子は、まるで着物が息を吹き返していくようでした。

迷わずお出かけできるコーディネートを2セット

藤色と薄緑色の着物に、それぞれ帯・帯揚げ・帯締めを合わせて畳の上に並べたコーディネート2セット

着物と帯、小物をセットにしておけば、次のお出かけも迷わずに。受け継いだ着物を楽しむ第一歩をお手伝いします。※画像はイメージです。

今回、もう一つ大切にしたことがあります。それは、「次に着物を着るとき、迷わないようにしておくこと」です。

着物は、着物だけでは着られません。帯や帯締め、帯揚げ、長襦袢など、合わせるものがたくさんあります。何と何を合わせればいいのかわからないと、「着てみようかな」と思っても、結局またしまい込んでしまいがちなんです。

そこで、これからお客様が着物でお出かけするときに迷わないよう、コーディネートを2セット作らせていただきました。

「この日は、このセットを着ればいい」と決まっているだけで、着物でのお出かけはぐっと身近になります。まずはこの2セットから、お母様の着物で出かける楽しさを味わっていただけたらと願っています。

「処分しない。受け継いだ宝物を着よう」

お片付けを始める前と、終わったあと。お客様のお気持ちは、大きく変わっていました。

とても大切にしまわれていたお母様の着物を一緒に見ていくうちに、「処分はせず、受け継いだ宝物を着よう」という思いが強くなったそうです。

そして、「一緒に見てもらってよかった」とおっしゃってくださいました。

この言葉が、何よりもうれしかったです。

最初は「多すぎて、どうしたらいいかわからない」と困っていらした着物が、お片付けを終えるころには「宝物」に変わっていた。それこそが、今回のいちばんの成果だったと思います。

お母様の着物は、これから娘さんの手で、第二の着物生を歩みはじめます。

受け継いだ着物で困っている方へ

もちろん、すべての着物を残さなければいけないわけではありません。暮らし方やお住まいの事情によっては、手放すことが必要な場合もあると思います。

ただ、その前に一度、「この着物はどんな着物なのか」「どんな思いで作られたのか」を知っていただきたいんです。知ったうえで決めたことなら、残すにしても手放すにしても、きっと心から納得できるはずですから。

  • 着物を受け継いだけれど、量が多くて手がつけられない
  • どんな着物があるのか、自分ではわからない
  • 着てみたいけれど、何をどう合わせたらいいのかわからない
  • 手放すか残すか、迷っている

そんな方は、どうぞひとりで抱え込まずにご相談ください。途方にくれるお気持ちも、手が止まってしまうお気持ちも、ぜんぶ受け止めながら、一緒にお片付けを進めていきます。

お母様、お祖母様から受け継いだ大切な着物。その思いを、次はあなたがまとう番かもしれません。

受け継いだ着物の整理・活用サポートのご案内

受け継いだ着物の種類の確認、仕分け、これから着るためのコーディネートのご提案などを、一緒に行います。

  • 料金:1時間 3,000円
  • 出張の場合:実際にかかる交通費を別途いただきます
  • 対応エリア:伺える場所であれば、どこへでも参ります
  • お申し込み・お問い合わせ

    着物のお片付けサポートをご希望の方は、下のエントリーフォームからご連絡ください。

    「何枚あるかわからない」「まずは相談したい」という方も大歓迎です。ご希望の地域やご相談内容を確認し、日程や交通費について折り返しご案内いたします。

    【着物のお片付けサポートに申し込む・相談する】

ご相談だけでも大歓迎です。お気軽にご連絡くださいね。

安原貸衣裳店

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